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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

玉龍丸現れる


             八月十四日    -壱-



  蒸し暑い夜だった。


 昨日から団体客が入ったという事で、このホテルも嬉しい事に満杯。


 俺に貸し与えてくれていた301号室も明け渡す日が来た。


 ひろみの隣の部屋で眠る事になった。


 扇風機が夜中中、廻っていたように思う。



  目を覚ますと、洋子と和子はもうホテルを手伝っていた。


 ”ひろみ”だけは今起きたばかりのようでパジャマのまま飛び回って

いる。


    「ひろみ!今何時?」


    「な~んだ!起きてたの!もう九時よ!」


 笑って部屋に入ってきた。


 ”ひろみ”は洗濯物の係りをやらされているようで、部屋の中に渦高

く積まれている乾いた洗濯物を整頓し始めた。


 TVでは、夏の高校野球が始まっているらしく朝から大きな声援が響

いて来ている。



  旅先からの第一報は東京にいる叔父の所である。


 台湾上陸の際必要なビザ取得の為、石垣~台湾の往復チケットが必要

だと言われ、仕方なく買った往復チケットのうち、要らなくなった復路のチ

ケットをキャンセルできないか・・・・・、という問い合わせの便りを送る

事にしたのだ。


 事前に取るといったビザはこの台湾だけ。


 これからはその都度ビザを申請し取得する事になる。


 軽い昼食を取った後、最後のドライブに行こうということになった。



  誰か一人フロントに残らなければいけないという事で、今度

は”ひろみ”が残る事に決まる。


 洋子と和子を引き連れて、親父さんのクラウンに乗り込み、近くの灯

台まで車を走らせた。


 灯台からの帰り断水で閉じていたフナクラガーデンで一休み。


 海水浴場あり、ビアガーデンあり・・・夜は若者達が集まり、星を

見、波の音を聞きながら冷たいビールを喉に通す。


 まさに南国の離島ならではの風情であろうか。


 海水浴場に来ている人たちの歓声を聞きながらビールを口に運ぶ。



  フナクラガーデンから山へ向かう。


    「大丈夫?飲んでるのに!」


    「一杯だけだから、命預けなよ!」


 細い山道をグングン登る。


 石垣島を一望できる眺望の素晴らしい山である。


 山頂は以外にも狭く、TV塔のアンテナが立っているだけの簡素な山

であるが、ここから見える眺望は感激に値する雄大さを秘めていた。



  新鮮な空気を胸いっぱい吸い込んで下山する。


    「あの船じゃない?あんたの乗る船。」


    「そうかもね。」


    「きっとそうよ!」


    「仲間も乗っているかも。」


 青い海の中に白い船が白い波筋を引きずりながらこちらに向かってい

るのが見えた。


 ”玉龍”だ。


 宮古島を経由して、今まさに石垣港に俺を乗せるために立ち寄ろうと

していた。


 今夕台湾へ向かうはずの船だ。


 ひょっとして、ヒッチハイカーの仲間が載っているかも知れない。


 沖縄で別れた仲間に逢えるかも知れない。


 そう思うと車は港へ。


 午後二時。


 停泊は、四時間でPM6:30出航予定である。



  石垣港に降り立つ人込の中からヒッチハイカーの仲間達が元気な姿を見

せた。


    「ヨー!元気だった。」


    「毎日が宴会よ!」


    「・・・・・。」


    「まだ時間あるけど・・・。」


    「最後の宴会に行って来るわ!」


 乗船時間であるPM5:00までの三時間もジッとしておれず、早速

彼らは石垣市内へと繰り出していった。


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